アバターを検索します…………
御殿場エリア
農業従事者アオノ
《ギャンブラー》
平行世界へのリンクを開始します。
暑い…ああ暑い。
権現さんにお昼の挨拶に向かう畦道。
御殿場西高は午前で終わりなのか子供たち数人とすれ違う。
「こんにちはー」
「はいこんちわ。気をつけてな!」
表通りにはバスもあるがこちらはひたすら田んぼの間の道を歩いて行くコースだ。
私が子供の頃はまだまだ大きいだけの村だった。いつの間にか部落を分断するように国道や県道が通り、田畑の上には新東名高速道路まで走っている。
毎年ここへ来ていた修験者もいつしか見なくなった。
自衛隊を退官し故郷の畑を耕すうちに娘は自立して出ていった。
女房とは離婚している。まあなんだ、愛するがゆえに別れることもあるさ。
用水である小山川のせせらぎと田んぼに引かれる水の音がかさなる。
青々とした草の匂い、砂利の敷き詰められた農道の両端に白くちょんちょんと色をつけるシロツメ草は幕末にオランダからガラス製品の梱包材として持ち込まれたものだ。こいつは地力を回復する上に葉っぱは食えるし、花からは蜜が取れる優れものだ。
この派手なやつは天竺牡丹。同じくオランダから長崎に持ち込まれたもので6月から7月上旬、つまり今が花盛りだ。
こいつもキンピラにして食べる試みは昔から成されているがイヌなんとかという毒があってな? 気を付けなければならない。
腹壊すぞ。
気の遠くなるほど大昔。この土地はヤマト朝廷の軍勢に攻め立てられ、富士山麓で続いてきた神さんと神事はヤマトに奪われた。律令制が始まる頃には漢字伝来以前の文字の使用は禁じられ、村の神殿や古墳は暴かれ、仙人の書いた記録は焚書され古代の神さんに関する伝承も縁起もすべて失われた…かに見えた。
ところが御先祖様は考えた。当時の朝廷が推し進めていた仏教に便乗して、その中に一族の縁起と伝承、秘術を…つまり仏像の中に神さん隠しちゃえばいいんでないの?と。
そうして飛鳥、奈良時代に産まれたのが修験道で開祖は愛鷹山一帯にいたエン一族。その宗教の形式は旧カモ族やサカ族によって富士山麓や伊豆半島、箱根に広まり、一山に一つの秘術が伝承された。古代豪族たちが再びプライドを取り戻し集うための旗印となったようだ。
蔵王権現は仏教には存在しない修験道オリジナルの仏であり、その仏像は先史時代の神像をモデルにしたと指摘する偉いセンセイもいらっしゃるが真相は不明、ただ1つだけ言えることがある。
私の一族はかつて情報戦や破壊工作に特化した忍者であり平将門公の反乱にも参加していた。
そして私はそんな凄い御先祖様を持ちながら財布の中の千円(いまの全財産)を握りしめ、“マルハン”という戦場にて最後の戦いを挑もうとしている。境内に敷き詰められたスコリアをジャリっと鳴らし、男は権現堂を振り返る。
“何卒勝たせてください”
…やがて軍艦マーチの現代風にアレンジされた軽快なメロディが聞こえてきた。